自筆証書遺言

遺言書作成・相続手続き

「遺言」あるいは「遺言書」という言葉は聞いたことがあると思います。テレビのドラマや小説でもたびたび登場しています。とはいえ具体的なイメージをお持ちでない方も多いのではないでしょうか? 

なぜ遺言を残すのでしょう。一言でいえば「遺言を残す人の相続への思いを実現させる」ためです。遺言を残さなくても相続はできます。しかし、その相続は、亡くなった方が実現したかった相続の形と同じとは限りません。自らの思いを実現するためには、亡くなってからでは遅いのです。「長い間連れ添った配偶者に、財産を残したい」「他の相続人よりも、多くの財産を残してあげたい人がいる」など、あなたに実現したい思いがあれば、遺言を残しておくことをお薦めします。

遺言の中でも「自筆証書遺言」は手軽に作成することができます。特段の費用もかかりません。遺言を残していることを秘密にしておくこともできます。

自筆証書遺言

遺言には3つの種類があります。「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3種類です。中でも「自筆証書遺言」は、遺言を残す人にとって、比較的抵抗の少ない方法だといえます。

有効な「自筆証書遺言」とするためには、どのようなことが必要でしょう。

自筆証書遺言の条件については、民法第968条に書かれています。

自筆証書遺言
(自筆証書遺言)
第九百六十八条 自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。
 前項の規定にかかわらず、自筆証書にこれと一体のものとして相続財産(第九百九十七条第一項に規定する場合における同項に規定する権利を含む。)の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しない。この場合において、遺言者は、その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名し、印を押さなければならない。
 自筆証書(前項の目録を含む。)中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。

ということは、

自筆証書遺言の条件
  • 遺言書の全文、遺言の作成日付及び遺言者氏名を、必ず遺言者が自分で書き、押印する。作成日は日付が特定できるように書く。「〇月吉日」といった書き方は認められない。
  • 財産目録を添付する場合は、自分で書かずに、パソコンで打ち出したり、不動産の登記事項証明書を添付したり、通帳のコピーを添付したりすることができる。その場合は目録の全ページに署名押印することが必要となる。
  • 遺言書を訂正又は追加することは可能。その場合、訂正又は追加した場所が分かるように示し,訂正又は追加した旨を付記して署名し,訂正又は追加した箇所に押印する。

こうした条件を守っていれば遺言書として認められることになります。

たとえば「長い間連れ添った配偶者に、財産を残したい」という遺言を実現するためには、次のように記載すればよいことになります。

自筆証書遺言の例
  遺言書

 遺言者□□□□は次のとおり遺言する。

 遺言者に属する一切の財産は妻□□□□(昭和□年□月□日生)に相続させる。

   令和□年□月□日
     □□県□□市□□町□丁目□番□号
     遺言者 □□□□(昭和□年□月□日生)

このとき遺言書自体は例のように横書きで書いても、縦書きで書いてもかまいません。その際、消せるボールペンの使用は避けてください。

また用紙も自由です。罫線が入っている用紙はかまいませんが、模様の入った用紙は避けてください。内容の読み取りができなくなる場合があるからです。

自筆証書遺言のメリット

こうして作成した「自筆証書遺言」には、次のメリットがあります。

まず第一に、費用がほとんどかからないという点です。極端にいえば紙とボールペンさえあれば作成できるのです。

次に、誰にも秘密で作成できるという点です。「自筆証書遺言」の作成には、遺言者のほかは誰も必要としません。誰にも内緒で作成することができます。絶対に秘密が守られるわけです。

手軽に作成できるうえに、費用もかからず秘密で作成できるというのが「自筆証書遺言」のメリットです。

自筆証書遺言のデメリット

ただし「自筆証書遺言」メリットばかりではありません。デメリットもあります。

自筆証書遺言のデメリット
  • 紛失、盗難、遺棄などにより遺言の実現が不確実
  • 家庭裁判所での検認が必要
  • 遺言の方式に不備があると無効になる可能性がある
  • 高齢などにより、全文自筆が困難な場合がある

といった点をデメリットとして挙げることができます。

遺言の実現が不確実

「自筆証書遺言」は遺言書の作成後、保管するのは遺言者本人ということになります。

遺言書を作成した後、長い間の保管するとなると、紛失することもあり得ます。紛失しなくても、遺言者が亡くなったあと、遺言書が発見されないままになってしまうことも考えられます。また遺言者が知らない間に遺言書が盗難にあっている場合もあります。そうなると、せっかく作成した遺言書も実行されないままになってしまいます。

さらには遺言者の死後、遺言書を発見した人物により破棄されてしまうことも考えられます。遺言が実行されないように破棄してしまうのです。遺言者以外には遺言書の存在を知らない場合は、遺言書はなかったことになってしまいます。

また紛失、盗難、破棄がなくても、遺言者が発見された後、「自筆証書遺言」の真贋をめぐって争いが起きることもあります。「この筆跡は、生前の遺言者の筆跡と異なる」といった疑惑です。生前は何事もなかった家族が、相続をめぐって疑心暗鬼になっていく場面です。物事を冷静に判断することができず、すべてが疑わしく思えてしまうのです。

家庭裁判所での検認

「自筆証書遺言」を発見した場合は、家庭裁判所に検認の申し立てをすることが必要になります。このことは民法第1004条にその定めがあります。

遺言書の検認
(遺言書の検認)
第千四条 遺言書の保管者は、相続の開始を知った後、遅滞なく、これを家庭裁判所に提出して、その検認を請求しなければならない。遺言書の保管者がない場合において、相続人が遺言書を発見した後も、同様とする。
 前項の規定は、公正証書による遺言については、適用しない。
 封印のある遺言書は、家庭裁判所において相続人又はその代理人の立会いがなければ、開封することができない。

「検認」というのは、裁判所が行う遺言書の確認手続きです。発見された遺言書が偽造されていないか、確実に保存されていたものかが確認されます。遺言書の有効性が確認されるわけではありません。

検認の申し立ての後、指定された日時に家庭裁判所に行くと、出席した相続人の立ち会いのもとで遺言書が開封され、中身が確かめられます。検認を終えると家庭裁判所から「検認済証明書」を発行してもらえます。

遺言書を家庭裁判所に提出しなかったり、「検認」を経ないで開封したりすると5万円以下の過料が課されます。家庭裁判所に申し立ててから検認が行われるまでは、おおむね2か月を要します。

検認しないで開封すると過料
(過料)
第千五条 前条の規定により遺言書を提出することを怠り、その検認を経ないで遺言を執行し、又は家庭裁判所外においてその開封をした者は、五万円以下の過料に処する。

自筆証書遺言書保管制度

「自筆証書遺言」のデメリットを補う制度として「自筆証書遺言書保管制度」があります。「自筆証書遺言書」を紛失、盗難、破棄などから守り、家庭裁判所による検認を不要にする制度です。「自筆証書遺言書保管制度」については、こちら で解説しています。あわせてご覧ください。

遺言が無効になる可能性

「自筆証書遺言」が法律的に有効になるためには、条件があります。それらが満たされていないと遺言が方式不備により無効になってしまう可能性があります。

家庭裁判所で検認を申し立てを行い、「検認済証明書」が発行されたとしても、遺言の有効性が確認されたわけではありません。例えば「自筆証書遺言」に書くべき氏名が、戸籍通りの旧字や異体字ではないなどの理由で無効とされてしまうことも考えられます。

特に「自筆証書遺言」の加除や変更の方式は、厳格に決められていますので、十分に注意することが必要です。「自筆証書遺言」では「公正証書遺言」のように、公証人というプロが関与するわけではなく自分だけが頼りですので、特に留意しなければなりません。

全文自筆が困難

「全文」というのは、遺言を書き記した部分のことです。財産目録などはワープロやコピーを使用することができます。

とはいえ高齢のため自筆が困難な場合もあり得ます。けがや病気の後遺症により筆記が困難な場合も考えられます。他人が遺言者の手を補助することも自筆の要件を欠くことになりますので注意しなければなりません。

ご相談ください

遺言書を作成したいが、書き方や内容の相談にのってほしい、どのように作成すればよいのかわからないとお悩みの方は、当事務所にご相談ください。

遺言者の思いを実現する遺言、相続人の負担を減らせる遺言を作成するお手伝いをいたします。遺言書の原案作成のご相談も承ります。よりよい相続の実現するために一緒に考えていきましょう。